便利さという価値観
1955年から1973年は日本の高度経済成長期です。
GDPは年率10%を超え、
「もはや戦後ではない」という言葉が流行し、
人々の暮らしも驚くほど速く豊かになっていきました。
白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫という
「三種の神器」と呼ばれた家電が
次々と家庭に入り込む時代、
この豊かさの恩恵を最初に受けたのが商店街でした。
そうです。商店街の黄金時代が来たのです。
人々の購買力が上がり商店街に人が溢れ、
土日の商店街は、肩がぶつかるほどの人混みでした。
戦後の焼け野原から必死に再建した商売人たちが、
ようやく「報われる時代」を迎えていました。
この時代の商店街には、
あたたかみがありました。
店主が子供の名前を覚えていたり、
常連客の家族構成を知っていたり、
「いつもの」という一言で注文が通りました。
タバコ屋の看板娘は
いつも必ず500札を出すお爺さんの顔を見るなり
愛飲しているタバコと釣り銭を用意しました。
江戸の本来のおもてなしを、
商店街の店主たちはAIも手帳もなしに、
頭と心だけで実践していたのです。
しかし、この黄金時代に、
新しい波も静かに押し寄せていました。
「チェーン店」の誕生です。
1958年ダイエーが大阪に開店。
1963年イトーヨーカ堂が東京に拡大。
1969年セブン-イレブンの日本上陸が準備され始めました。
「どこでも同じ品質を安く、早く、便利に」
という原則が消費者の心を掴んでいきました。
チェーン店の強さは、
圧倒的なコスト競争力でした。
大量仕入れなので
個人商店より安く仕入れられます。
マニュアル化をしているから、
経験のないスタッフでも一定の品質を保てます。
規模の拡大や多店舗展開で広告に大きな予算をかけられます。
個人商店の店主が一人で全部やっていた事
組織でなので分業して行えます。
効率という点では、
個人商店は到底勝てませんでした。
そして、「価値観のすり替え」も起きました。
「便利さ」が「良さ」の基準になり始めたのです。
早いのは良い、安いのも良い、
どの店舗でも同じなのも良い。という価値観です。
この価値観が広まるにつれ、
段々商店街の「不便さ」が
「古さ」「時代遅れ」として見られるようになりました。
「あの八百屋高いよね」
「スーパーで買えばもっと安い」
「駐車場がないから行きにくい」
という声が大きくなり、
商店街の店主たちは、
価格でも、利便性でも、
チェーン店に勝てなくなったのでした。
1973年、オイルショックが来ます。
高度経済成長は突然終わりを告げました。
物価が急騰し、消費者の財布の紐が締まり、
「安さ」への需要が一気に高まりました。
この流れがチェーン店と大型スーパーへの
集客をさらに加速させ、
商店街から人が徐々に減り始めました。
しかしこの時代に見逃せない動きもありました。
商店街の店主たちが、
チェーン店に対抗しようと
「商店街組合」を強化し始めたのです。
共同でセールを打ったり、アーケードを整備したり、
スタンプカードを導入したりして、
「個」ではなく「街」として
お客さんを再び呼び込もうと試みたのです。
そしてこれは、江戸の「仲間制度」の
現代版でもありました。
「一人では大変だけど
街全体で臨めば」という発想は正しかったのです。
しかし…実行は難航しました。
店主それぞれの思惑が違い、
まとまれなかった商店街が多かったのでした。
この時代で確定した価値観は
現代に受け継がれてます。
「便利さ」は一度基準になると後退出来ないのです。
チェーン店が「便利さ」を提供し始めた瞬間、
商店街はその土俵で比較される様になりました。
しかし、商店街が本来持っていた価値は、
「便利さ」ではなかったのです。
「顔」「温度」「記憶」…同じ地域に住む者同士、
人としての結びつきでした。
だからこそ、その価値を守り続けた商店街だけが、
次の時代に生き残れたのです。
松下幸之助は
「お客様の声を聞け。お客様の中に答えがある」と言いました。
チェーン店はデータでお客様を分析しましたが、
商店街の店主は日々のやり取りでお客様を知ってました。
さて、本当にお客様を知っていたのは
どちらでしょうね?
つづく
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望月まもる(集客支援コンサルタント)地域の商いを見続けて40年。整体・接骨院の勉強会で約10数年講師を務めております。商工会や行政、工務店・リフォーム会社、各種サロンなどの業界団体でも、セミナーや講義・勉強会・研修を行っております。クライアントは、接骨院・整体院・各種サロン業・物販・通販会社・製造業・学習塾・音楽教室・リフォーム会社・工務店・ポスティング会社など多岐にわたります。著書:「儲けるポスティング損するポスティング」「『集める』から『集まる』店へ」