「好き」で始めたはずなのに
料理が好きで、飲食店を開きました。人の体を治したくて、整体院を開きました。髪を切るのが好きで、美容室を開きました。
そして、その「好き」は、かつて本物でした。
ところが、開業したあの日から、それまでただ純粋に「好き」と思えていた頃とは、違う世界が始まったのです。
私は40年近く地域の商いを見続けてきましたが、何度も出会ってきた景色があります。それは、好きで始めたはずの仕事が、いつの間にか「義務」に変わっていく光景です。
お客様の顔より先に今月の売上が頭に浮かんでしまったり、新しい技術を学びたいと思っても「また出費がかさむか」というため息が先に出てしまったり。
一応言っておきますが、これは弱さではありません。商売が持つ顔の一面が開業直後からやって来て、いつの間にかそこにハマってしまうだけなのです。商売の洗礼を受けた、とでも言いましょうか。
プロの道に、果てはない
まず「好き」と「出来る」は別物です。いくらギターが好きでも、弾けるか弾けないかには違いがありますよね。
また「出来る」と「欲しがってもらえるほど出来る」も違います。お客様からお代をいただく以上、技にも知識にも最低限の水準があるのです。
そして、このプロの道には果てがありません。入門があり、中級があり、上級がある。ようやく上級に届いたと思った頃、その先にまた山が見えてくる。「知れば知るほど、知らない事や課題が増えていく」のですね。
どの道の達人も「終わりなんて無いよ」「お客さんに喜んで欲しいからね」と楽しそうに語られます。人様からお代を頂戴するとは、そういうものなのです。
「経営者」というもう一つの顔
そして次が「経営者」としての側面です。開業した瞬間から、お金が動きます。
まずは「出るお金」からスタートですが、開店と同時にお客様からお金を頂かないと、出したお金を回収できません。家賃も光熱費も、自分の生活費も、すべてお客様から頂くお代に掛かっているのです。
そのためには、知ってもらい、足を運んでもらい、その上でご購入いただかなければなりません。しかも経営者としては1年生。右も左も分からないけれど、開店と共にこれらが全てスタートしているのですね。
売上は読めないまま、家賃や材料費、光熱費が毎月きっちり出ていく。通帳の残高を見る都度、胃のあたりが重くなる。雇ったバイトも、育った頃に辞めていったり。「自分でやった方が早い」と一人頭を抱えるのです。
「好き」は静かに消えていく
そんな状況の中、当初の「好き」という気持ちはどうなると思いますか。静かに消えていくのです。
ある朝「あれ、楽しくないな」と気づくか、あるいは自覚もないうちに音もなく消えてしまい、「なぜ店なんて始めたんだろう」とむしろ嫌いになってしまう人も多いのです。
好きで始めた方が「好きでいられなくなる現実」を知り、その重さの中で力尽きていく。これが、開業した人の9割以上が10年後に居なくなる本当の理由です。
渋沢栄一翁はこう遺しました。「道徳なき算盤は犯罪であり、算盤なき道徳は寝言である」と。職人としての誠実さが道徳であり、経営者としての数字が算盤です。お店を開いた瞬間から、この両方をたった一人で回し続けなければならないのが商売です。
では、どうすればよいのか
まずは、全てを一人で背負おうとしない。知らないこと、出来ないことを認める、ということです。
知らない、出来ないのは恥ずかしいことではありません。子供の頃、自転車に乗れるよう一生懸命練習したから乗れるようになったのと同じで、最初は誰もが下手でも、いつしか身につくのです。
職人の技は自分で磨くしかありません。それはあなたの商品だからです。しかし、経営や集客の知恵はいくらでも学べるし、手伝ってもらえるし、借りられるのです。何ならAIがそこそこやってくれたりもします。
店を閉めてしまう人に共通していたのは、「知らない」と素直に言えなかった人、誰かを頼れなかった人でした。だから潔く「教えてください」と言える商売人は、とても強い。それが商売人として最強かつマストの素質なのです。
時間の余裕から、取り戻す
自分の中にあった「好き」を取り戻すには、心の余裕が要ります。心の余裕を取り戻すには、時間の余裕が必要です。
なので、まず時間の余裕をつくりましょう。そして、その時間を「今、足りていない部分を補うため」に費やすのです。
AIを使いこなすために使うも良し、お客さんを呼び戻すために使うも良し、メニューを刷新する時間に充てるも良し。まだ下手な部分に、全て投入するのです。
すると、いつしか経営者として、プロとして「楽しむ感覚」が更新されている自分に気づけます。そして、その感覚は「使命感」という新しい呼び名になっているのです。
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望月まもる(集客支援コンサルタント)地域の商いを見続けて40年。整体・接骨院の勉強会で約10数年講師を務めております。商工会や行政、工務店・リフォーム会社、各種サロンなどの業界団体でも、セミナーや講義・勉強会・研修を行っております。クライアントは、接骨院・整体院・各種サロン業・物販・通販会社・製造業・学習塾・音楽教室・リフォーム会社・工務店・ポスティング会社など多岐にわたります。著書:「儲けるポスティング損するポスティング」「『集める』から『集まる』店へ」